ギグワーカーのための開業届と税金 ~いつ、どうやって出す?~
ギグワークを始めたばかりで、税金や確定申告について学び始めた皆さんの中には、「開業届」という言葉を耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。これは一体何のための書類なのでしょうか。そして、ギグワーカーである自分に関係があるのでしょうか。税金とどのような繋がりがあるのか、出すと何か変わるのか、不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、ギグワーカーの皆さんが「個人事業の開業・廃業等届出書」、通称「開業届」について正しく理解し、ご自身の状況に合わせて必要かどうか判断できるよう、基本的な情報を分かりやすく解説します。税金との関係や、手続きの方法についても触れますので、ぜひ最後までご覧ください。
個人事業の開業届とは何ですか?
個人事業の開業届とは、「新しく事業を開始しました」ということを税務署に知らせるために提出する書類です。正式名称を「個人事業の開業・廃業等届出書」といいます。
会社員として働きながら副業でギグワークをしている方や、本業としてギグワークを始めた方など、個人として事業を行っている方が提出の対象となります。
この届出は、所得税法で「事業を開始した等の事実があった日から一月以内に提出するよう努めなければならない」と定められています。つまり、法律上の「義務」というよりは「努力義務」に近い位置づけです。提出しなかったとしても、罰則が科されることは基本的にはありません。
では、なぜ多くのギグワーカーやフリーランスがこの開業届を提出するのでしょうか。そこには、税金と深く関わるメリットが存在します。
ギグワーカーが開業届を出すべき理由と税金との関係
ギグワークによる収入は、主に「事業所得」または「雑所得」のいずれかに区分されます。
- 事業所得: 継続的、反復的に、独立して行われる事業から生じる所得。ギグワークを本業としている場合や、副業であっても事業として継続的に行っていると判断される場合はこちらに該当する可能性が高いです。
- 雑所得: 上記の事業所得や給与所得など、他の9種類の所得のいずれにも当たらない所得。副業のギグワークで、一時的または単発的な収入である場合などはこちらに該当する可能性があります。
開業届は、このうち「事業所得」を得ている方が提出することが想定されている書類です。では、開業届を出すことの税務上のメリットは何でしょうか。それは、主に「青色申告」を選択できるようになることです。
青色申告は、日々の取引を複式簿記という方法で記録する必要がありますが、その代わりに税金計算上、様々な特典(メリット)を受けることができます。主なメリットは以下の通りです。
- 青色申告特別控除: 最大65万円または10万円の所得控除を受けることができます。これにより、課税される所得金額を減らすことができ、結果として所得税や住民税の負担を軽減できます。
- 青色事業専従者給与: 事業を手伝う家族に支払った給与を必要経費に算入できます(一定の要件を満たす場合)。
- 純損失の繰越しと繰戻し: 事業で赤字(損失)が出た場合に、その赤字を最長3年間繰り越して、翌年以降の黒字と相殺できます。これにより、将来の納税額を減らすことができます。また、前年も青色申告をしている場合は、赤字を前年に繰り戻して税金の還付を受けることも可能です。
開業届を提出し、「青色申告承認申請書」を合わせて提出することで、これらの青色申告の特典を受ける道が開かれます。特に青色申告特別控除の65万円控除は、税負担を大きく軽減できる可能性があるため、大きなメリットと言えるでしょう。
一方、開業届を出すこと自体に直接的な税金上のデメリットはほとんどありません。ただし、以下のような点には注意が必要です。
- 社会保険や扶養への影響: 会社員の方が副業としてギグワークを行い、開業届を提出して個人事業主としての側面が強くなる場合、健康保険や年金、会社の扶養制度(配偶者控除や扶養控除など)に影響が出る可能性があります。特に扶養の範囲内で働きたい場合は、年間の所得金額に注意が必要です。これは開業届の有無にかかわらず収入金額による判断ですが、開業届を出すことでより「事業を行っている」とみなされやすくなる場合もあります。
- 失業保険受給への影響: 雇用保険の失業等給付は、働く意思と能力があるにもかかわらず仕事に就けない状態の方が受給できるものです。開業届を提出すると、一般的に「事業を開始した=就職した(働く意思がある状態ではない)」とみなされ、原則として失業等給付の対象外となります。
これらの注意点はありますが、税金面、特に所得税の負担軽減という点では、開業届を提出し青色申告を選択することに大きなメリットがあります。
開業届の提出方法と手続き
開業届の提出手続きは、思っているよりも難しくありません。
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提出先を確認する:
- 納税地を所轄する税務署に提出します。納税地は、原則として住所地です。
- ご自身の住所を管轄する税務署は、国税庁のウェブサイトなどで確認できます。
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提出書類を準備する:
- 必要な書類は、「個人事業の開業・廃業等届出書」です。
- 用紙は税務署の窓口で受け取るか、国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。
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必要事項を記載する:
- 氏名、生年月日、住所、マイナンバーなどを記載します。
- 事業所の情報(名称、所在地など)、事業内容(Webライター、デザイナー、配達サービスなど、具体的に)、開業日などを記載します。
- 「所得の種類」は「事業所得」にチェックを入れます。
- 特に重要なのは、「青色申告承認申請書」を提出するかどうかを記載する欄です。青色申告を希望する場合は、「青色申告承認申請書を提出します」にチェックを入れます。
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提出する:
- 税務署の窓口に持参: その場で職員に確認してもらい、控えに受付印を押してもらうことができます。本人確認書類とマイナンバー関連書類が必要です。
- 郵送: 税務署宛に郵送します。控えに受付印を押して返送してもらうためには、控えのコピーと返信用封筒(切手を貼って宛名を記入したもの)を同封する必要があります。
- e-Tax: 国税庁の確定申告等作成コーナーや、対応した会計ソフトなどからオンラインで提出できます。マイナンバーカードとICカードリーダー、または税務署で発行されるe-Taxの利用者識別番号と暗証番号が必要です。
提出は、事業開始等の事実があった日から1ヶ月以内が目安とされていますが、遅れても受け付けてもらえます。ただし、青色申告をその年から適用したい場合は、「青色申告承認申請書」の提出期限に注意が必要です。原則として、その年の3月15日まで(1月16日以降に新規開業した場合は、開業日から2ヶ月以内)に提出する必要があります。開業届と青色申告承認申請書は同時に提出することをおすすめします。
提出する際は、必ず提出用とは別に控えを一部作成し、税務署の受付印を押してもらうか、e-Taxの場合は送信データを保存しておきましょう。この控えは、事業を行っている証明として、後々必要になる場合があります。
まとめ
個人事業の開業届は、ギグワーカーとして事業所得を得ている方が、税務署に事業開始を知らせるための書類です。提出は努力義務ですが、最大のメリットは「青色申告」を選択できるようになり、税金計算上の大きな控除や特典を受けられるようになることです。
開業届の提出自体は比較的簡単な手続きです。まずはご自身のギグワークが「事業所得」に該当するかどうか、そして青色申告のメリットを享受したいかどうかを検討してみてください。もし青色申告を目指すなら、開業届と合わせて青色申告承認申請書も忘れずに提出しましょう。
税務に関する情報は改正されることがあります。ご自身の状況に合わせて最適な選択をするためにも、ご不明な点があれば税務署の窓口や電話相談、または税理士などの専門家にご確認いただくことをお勧めいたします。
まずは、この記事を参考に、ご自身の働き方と開業届について考えてみる一歩を踏み出してみてください。